「食事中のむせ、どうすればいい?」在宅介護や施設ケアの現場でよく聞かれる疑問に、摂食・嚥下専門の歯科衛生士がお答えします。
「むせてるけど、まあ大丈夫かな」
そう思いながら、様子を見ていませんか?
先日訪問した施設でのこと。スタッフの方も、ご本人も、食事中のむせに気づいていました。でも、どれでむせるのか、どう対処すればいいかわからないまま、毎日の食事が続いていたんです。
そこでどの場面でむせがみられているのか確認し、ほんの少し水分にとろみをつけてみたところ――むせがぴたりと止まりました。
「こんな簡単なことで変わるんですね」とスタッフさんも驚かれていました。
サラサラした液体は流れるスピードが速いため、喉の動きが間に合わずむせることも多いんです。
むせは「年のせい」でも「仕方のないこと」でもありません。
原因があって、対処できることが多いんです。
そもそも「嚥下(えんげ)」とは?むせる原因を知ろう
難しい言葉ですが、意味はシンプルで「飲み込む」ことです。
私たちは食事のとき、無意識のうちに食べ物を口でまとめて、喉に送って、食道に流し込んでいます。この一連の動きが「嚥下」です。
実はこの動き、20以上の筋肉が連動して行われています。若いうちは意識しなくてもスムーズにできますが、加齢や病気によって筋力が落ちると、少しずつうまくいかなくなってきます。
💡「部屋ではせんべいを食べられているのに、食事のときだけむせる」
これ、よくある場面です。お部屋ではおせんべいを自分のペースで食べられていても、食事の時間はいろんな食感のものを食べるし、スープやお茶もあります。それだけで、飲み込みへの負担がぐっと増えることがあるんです。
周りから見ると「なんでむせているのかわからない」となりがちですが、本人にとっては毎回の食事が緊張を伴うものになっていることもあります。
嚥下機能低下のサイン5つ|むせ以外の症状もチェック
むせ以外にも、嚥下機能が落ちているときに出やすいサインがあります。ひとつでも当てはまれば、早めに専門家に相談することをおすすめします。
1.むせる回数が増えてきた
以前より食事中や水分を飲むときにむせることが増えた。「たまに」が「よく」になってきたら要注意です。
2.食事に時間がかかるようになった
口の中でうまくまとめられず、飲み込むのに時間がかかっています。舌の力が弱くなると、食べ物をまとめて喉に送る動きがうまくできなくなります。
3.食後に痰が増えた・声がかすれる
食後に声がガラガラする、痰がからむ――これは食べ物や飲み物が気管のほうに少し入っているサインかもしれません。「ゴロゴロした声」は特に注意です。
4.食欲が落ちた・食事量が減った
食べることへの不安や疲れから、自然と食事量が減ってくることがあります。「最近食べるのが遅くなった」「残すことが増えた」も見逃さないでください。
5.発熱を繰り返している
気づかないうちに少しずつ食べ物が気管に入り続けると、誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。原因不明の発熱が続く場合は、誤嚥が関係している可能性があります。
⚠️「むせていないから大丈夫」は危険なことも
実は、むせない誤嚥(不顕性誤嚥)というものがあります。気管に食べ物が入っているのに、むせるという反応が出ない状態です。高齢になるほど起きやすく、気づかないまま肺炎につながるケースもあります。
介護現場ですぐできる対処法3つ|姿勢・とろみ・一口量
① 姿勢は「背筋ピン」より「少し後ろに倒す」が正解なことも
「むせるなら背中をまっすぐ起こして食べさせよう」――実はこれ、逆効果になることがあります。
舌の力が弱くなっている方は、食べ物を喉の奥に送り込む力が落ちています。背中をまっすぐ起こした姿勢だと、重力に逆らって食べ物を送らなければならないので、口の中に溜め込んでしまったり、うまく飲み込めずにむせやすくなることがあるんです。
そういった方には、少し背中を倒した「リクライニング姿勢」が安全に食べられることがあります。
「正しい姿勢」は全員に同じではありません。その方の飲み込みの状態に合わせることが大切です。
② とろみは「つければいい」わけではありません
水やお茶などサラサラした液体は、実は飲み込むのが一番難しい形状です。とろみをつけることでゆっくり喉に流れるようになり、むせが起きにくくなります。
⚠️ つけすぎると逆効果
とろみが濃すぎると、今度はべったりと喉に張り付いて飲み込みにくくなってしまいます。「なんとなく濃いめにしておけば安心」は間違いです。また、とろみ剤の種類によっては飲み物の味や見た目に影響が出ることがあり、「とろみをつけたら飲みたくない」とおっしゃる方も少なくありません。水分をしっかりとることはとても大切なので、本人が飲めるものを一緒に探していくことが重要です。
とろみの濃さや種類は、その方の飲み込みの状態に合わせて調整が必要です。「どのくらいのとろみが合っているか」は専門家に相談しながら決めていくのがおすすめです。
③ 一口の量を少なめにする
一度に口に入れる量が多いと、まとめて飲み込む負担が増えます。スプーンを小さめにする、一口ごとに間をおくだけでも、むせのリスクが下がることがあります。食べるペースをゆっくり整えるだけで、驚くほど変わる方もいます。
まとめ|食事中のむせは「様子見」が一番危ない
この記事のポイントをまとめます。
- むせは加齢による自然な変化ではなく、原因があって対処できることが多い
- むせ以外にも、食後の声のかすれや発熱など嚥下機能低下のサインは5つある
- 姿勢・とろみ・一口量の調整で現場でもすぐに改善できることがある
- 「むせていないから安心」ではなく、不顕性誤嚥にも注意が必要
「気になるな」と思ったそのタイミングが、一番早い相談のときです。
「最近むせることが増えた」「飲み込みが心配」
そんなことが気になり始めたら、一人で抱え込まないでください。
在宅でご家族を介護されている方も、施設でケアにあたるスタッフの方も、
どうぞお気軽にご相談ください。
さち|摂食嚥下専門フリーランス歯科衛生士
摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士/DHP嚥下トレーナー認定士/調舌トレーナー/デンタルリメディアルセラピスト
歯科衛生士歴27年、うち訪問・在宅での摂食嚥下支援を約10年専門に行っています。

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